430MHzの電波伝搬について思うこと
                          (1995 924 JG0TEV中村 豊)


()はじめに

 一般に430MHzFMの電波伝搬は見通し距離の範囲内と言われていますが、

時として数百キロの彼方からの電波が強力に受信でき、大騒ぎになることがあります。

新潟県でいえば7エリアの秋田県や青森県、8エリアの北海道、3エリアの京都府、

兵庫県、9エリアの石川県、4エリアの鳥取県、島根県、さらには6エリアなどとの

QSOがそれです。

ダクト発生のメカニズムはまだ明確に解明されていませんが、年間を通じて

数回というレベルで発生していることはよく知られているところです。

 

()電波の飛びはコンディション次第

95年の移動運用のベースポイントとして、長岡市、および箕島町を通る西山林道のポイントを選び

春から移動運用を続けてきた結果、QSOできる距離はその日のコンディションによって

大きく左右されることがわかってきました。

移動ポイントでの標高は約300m近くありますから、見通し距離は65Kmといったところです。

この距離は移動ポイントから南西方向を見渡すと、上越市程度の距離となります。

この程度までの交信ではRSレポートは59、またはこれに近い値となってほぼ一年中

QSOできると考えていいと思います。

ところが、この見通し距離を越えたポイントとのQSOとなると、一年中QSOができる訳ではなくなります。

例えば、富山県以遠とのQSOを考えると、その日によって全くQSOが成立しない時もあれば、

RS59で交信が成立する時があります。夏場に各局さんが移動運用しているのを聞いていると、

よく富山県、石川県各局とQSOされている様子が聞こえるので、その場所に行けばいつでも遠くの

局とQSOができるという錯覚を受けてしまいますが、実はそうではないのです。移動ポイントから

富山湾に面したところまでの距離は150Kmありますから、間違いなく見通し距離よりも遠くになります。

富山県高岡市のレピーターをアクセスする場合、モービルホイップ、0.3Wからでさえアクセスでき、

ワッチレポートでRS59の時があれば、ビームアンテナから10W出しても全くアクセスできない時も

あるのです。

(冬場に限らず夏場でも全くアクセスできない時があります。)

つまりいくらロケーションのいい所に移動して、そこそこ利得のあるビームアンテナを振り回しても、

全然電波が飛んでいかないということがあるのです。

(見通し距離内のQSOは別ですが。)

HFやVHFのバンドではよく遠距離とのQSOがさかんに言われますが、430MHzFMとなると

数百キロに及ぶ交信が年中、常時できるということは不可能といえるでしょう。

(プリアンプを使ったり、山岳反射などを巧みに使った場合、ある程度の距離までは別のようですが。

・・・例えば1−0エリア間のQSOとか。)

 

()なぜ電波の飛びが変わるのか?

ではなぜ電波の飛びがこれほどまでに変わるのでしょうか。よく言われていることとして、

温度、湿度、気圧、天気、感覚的な暑さなどがありますが、どの要素がどれほどの影響を

与えているかというのは実はよくわかっていないようです。

 ただ、気温が高いほど電波はよく飛ぶらしいということと、気圧が高いほど電波がよく

飛ぶらしいということは一般的に言われています。しかし、一見晴れていていかにも

電波が遠くまで飛びそうな時でも全く飛んでいかなかったり、いまいち晴れ上がって

いない時にもかかわらずと送りエリアとQSOができたりすることもあります。

 

()430MHzFMのおもしろさ・・・山岳反射、異常伝播

430MHzにおける伝播の特徴として、VHFに比べると飛距離は伸びない(直進性が

強いので電波の見通し外への回り込みが弱い)ようですが、山岳反射によるQSOと

ダクトによる異常伝播によるQSOができます。林道の移動ポイントから海岸線に

沿った方向にはダクトを使ったQSOをすることができます。

 

()異常伝播のひとつ・・・日本海ダクト

日本付近に発生するダクトとしては、太平洋上(東北地方沿岸 及び本州から九州に至る

太平洋沿岸)に発生する太平洋ダクト、日本海上、日本海沿岸に発生する日本海ダクト

などがありますが、新潟県では日本海ダクトによるQSOができることがあります。

日本海ダクトは太平洋ダクトに比べると年間の発生数はきわめて少ないようですが、

ひとたび発生すると数時間から十数時間にわたって出現することがあります。

ダクトは一般に上空に発生する空気の逆転層による異常伝播と考えられていますが、

逆転層は実際に肉眼で見えるわけでなく、その発生メカニズムはまだはっきりと

解明されていないようです。また、ダクトが発生していれば何処にいても遠くのエリアと

QSOができるというわけではなく、きわめて限られた範囲同士の間だけでしか

QSOができないという特徴を持っているようです。

 では、今年1995年に経験した計をいくつか挙げてみましょう。

 8エリアから北海道の移動局が出ていたときのことです。新潟市、西蒲原郡

各局からは8エリア向けにレポート59を送っているのですが、長岡市ではキャリアを

感じるくらいにしか聞こえてきませんでした。

また、燕市、参上し、西蒲原郡各局が9エリア石川県の局とRS59でレポート交換

しているのにもかかわらず、長岡では全く入感していなかつたということはよくあることです。

さらにこのQSOを聞いていると、時間とともにダクトは移動するらしく、三条市各局の

RSレポートが悪くなってQSOができなくなったかと思うと、今度は加茂市の局が突然に

RS59を送るといったことが起こるのです。話を聞いていくと、三条市、西蒲原郡

各局がQSOできなくなったころから加茂市で9エリアが聞こえ出したということです。

三条市加茂市は隣り合っていて数キロしか離れていませんので、このときのダクト

によるQSOが成立する範囲は、わずか数キロ四方以内の範囲に限られていたものと

考えられます。

ダクトによってQSOできる範囲の広さは、そのときの状況によって変わり、数キロ四方に

限られる場合もあれば、数十キロ四方にわたる場合もありますが、いずれにしても

ごく限られた範囲同士でしかQSOできないといった特徴を持っているようです。

また、時間の経過とともにその範囲が移動するということもおもしろさといえます。

0エリアと8エリアの間でのダクトによるQSOの場合、まず新潟市などの海岸付近から

オープンし、時間の経過とともに西蒲原郡、三条、長岡でも聞こえるようになっていく

ということはよく言われます。

 

()ダクトによる異常伝播の特徴

通常ではQSOが成立しないはずの遠距離間でRS59のレポート交換ができるという

状況で、電波はどのような伝播をしているのでしょう。

5月に経験した長岡−対馬間の900キロ離れた地点間のQSOを考えてみましょう。

AさんとBさんは実に900キロ離れています。通常ではAさんの空中線から出た電波は

と900キロも飛んでいく間にはすっかり弱まってしまって、BさんはAさんの変調を

聞き取ることはできません。ところが、ダクトが出現すると、楽にQSOすることができてしまうのです。

もちろんプリアンプなどというものは必要ありません。電波が飛んでいる900キロもの空気中で

電波が増幅されることはありませんから、Aさんの空中線から出た電波は通常では考えられない

レベルでほとんど減衰しないままBさんのところに到達したという事になります。

ではなぜこんなことがおこるのでしょうか。

ダクトの説明としてわかりやすいものに、トンネルや光ファイバーを使った説明があります。

トンネルの中では反射によって電波は何処までもトンネルの中を通っていき、外には

にげていかないのですぐに弱くなることはありません。また、光ファイバーに至っては

いり口から入った光はほとんど減衰することなく何百キロ、何千キロという距離を飛んでいきます。

ダクトの電波伝搬は空気中にこのような巨大なトンネルや光ファイバーが浮かんでいる

ものと考えるとわかりやすいといえます。

ダクトの入り口に入ってしまった電波は、ダクトの中をひたすら飛んで出口まで飛んでいきます。

ダクトの中を飛んでいる電波がダクトの外に逃げていかないところまでは、ダクトの外からの

電波もダクトの中に入ってこないということですから、ダクトの入り口と出口から離れた場所では

遠くからの電波は全く聞き取ることができないのです。

 

()ダクト伝播の落とし穴・・・スキップ

ダクトによるQSOの成立はごく限られた範囲です。この範囲から外れた所では残念ながら

ダクトによるQSOはできません。例えば秋田県と富山県の間で各局がRS59を送っているにも

かかわらず、その間にある新潟県では全く聞こえないということがあるのです。

5月のある晩の移動運用の時のことです。南西向けにビームを振って移動運用をしていると、

4エリアからお声がけをいただきQSOしました。ところがこの後に9エリアからお声がけ

いただいた局の話では、こちらの変調はよく入っているのに4エリアの局の変調は

全く聞こえなかったというものでした。もちろん9エリアの方はビームを0エリアや4エリアに

振りなおしてみた上での話です。9エリアは0エリアと4エリアの中間にあって、0エリアより

はるかに相性がいいはずですが、全く聞こえなかったということです。

6月頃のある晩の移動運用の時のことです。コンディションもまずまずでいかにもダクトが

出現するといったときの夜、林道に上がって西向けにビームを振っていると、9エリアの

富山県各局が7エリア秋田県の局にRS59を送っていました。秋田の局からも

RS59を送っているようでしたがビームを北に向けても秋田の局の変調は全く聞こえません。

逆にビームを9エリアに向けると秋田局の変調がRS43で聞こえるといった状態でした。

これは秋田県からの電波がダクトに乗って富山県付近でダクトから出たときに

どこかの反射でわずかに聞こえてきたものと考えられます。しばらくの間のこのチャンネルを

聞いていましたが、新潟県からは1局もQSOする局はありませんでしたので、

新潟県の上空で電波がスキップしていたものと考えられます。

いくら条件が整ってダクトが出現したとしても、自分の居る場所の上空でスキップしてしまうと

全く手が出せないというのがダクト伝播のつらいところでもあるのです。スキップしている

ところでいくら声を枯らしてCQを出し続けても、ダクトに電波を乗せることはできないのです。

 

()ダクトの出現は予知できるか!

前にも述べましたが、抱くとは上空にできる空気の逆転層がその正体と言われています。

その発生メカニズムはまだ解きあかされていないようですが、ダクトが出現したときの

状況を細かく観察していけば、予知のヒントが隠されているかもしれません。

空気の逆転層ができるということはどういうことでしょうか。一般に空気は地上付近で

あたたかく、上空にいくほど冷たくなります。逆転層とはある高さでこの関係が

全く逆になっているということらしいのです。

では逆転層が出来上がるための条件とは何でしょうか?

単純に考えれば、まず天候が穏やかなこと。これは地上付近から上空に至るまで

風が強いと空気がかき回されますので逆転層はできないでしょう。風は弱いか、

または無風に近い状態の方が条件的には有利と考えられます。

また、一般的に春から初夏にかけての4月中旬から6月頃にかけては毎年ダクトが

発生していることから、季節的なものも多分にあるものと言えます。

気圧配置に至っては、ダクトが出やすいカタチがあることがわかってきていますが、

秋になってしまうと春先にダクトが出やすい気圧配置になってもダクトは出現しないことから、

春先の陽気と春の日本海の海水温との関係も無視できないかもしれません。

実際にこれらの諸条件が複雑に重なり合った上でダクトははっせいするものですから、

簡単に予測をすることはやはり難しいものと言えるでしょう。計算で割り出した

這う字や確立の上での話しでなく、今日はいいかな?といった直感的な判断に

頼ったほうが予測は確実なのかもしれません。

しかし、このようにダクトが発生するための諸条件について考え、細かく調べていくことによって

その発生メカニズムが少しずつ解き明かされていくのではないでしょうか。

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